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「個人投資家を増やすことが大事」は本当か

カテゴリ: 会計・ファイナンス 作成日:2017年02月06日(月)

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今朝の日経新聞に面白い記事が出ていました。

 

個人投資家、振り向けばいつも逆張り (市場の力学)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGD25H4I_X20C17A1SHA000/?dg=1

 

「年間で見ても、2016年まで過去10年間のうち実に8年で、日経平均の上げ下げと個人の売り買いは逆方向だった」とありますが、そこまで見事に個人投資家が逆張りというのは知りませんでした。なぜ個人投資家は逆張りなのか?の理由として、日本の個人投資家の売買動向は見事に逆張り(株価が上がれば売り、下がれば買う)だが、それは個人投資家がファンダメンタルズを信じておらず「値ごろな価格だから買う」という感覚だからだ、と書かれています。この理由付けは、わかる部分もありますが、一方で証券会社が買ったり売ったりさせているのでは…という気もします。

 

少し話は変わりますが、このコラムに関連するテーマで、私は、「個人投資家を増やそう」という、政府、証券会社や事業会社が掲げる目標には、半分賛成で、半分反対です。

 

まず、「貯蓄から投資へ」という意味では、この目標には私は大賛成です。日本は家計の余剰資金に占める銀行預金の割合が高い国と言われますが、利息のつかない銀行にお金を積み立てることで日本の家計は損をしています。もちろん、株式投資にはリスクがありますが、「時間」を味方につけることができる個人投資家は、長い目で見れば株式投資で(少なくとも銀行預金よりははるかに)報われる可能性はかなり高く、特に税制上の優遇がある確定拠出年金(最近、多くの人が個人型確定拠出年金に加入できるようになりました)やNISA(少額投資非課税制度)を通じた投資は、余剰資金が少しでもあればなるべく早く取り組んだ方が良いと思います。

 

一方で、「個人投資家を増やそう」という目標を、「個人が個別株をどんどん買おう」という意味で使うのであれば、私はこの目標には反対です。なぜなら、個別株式を評価して買うにはそれなりに会計とファイナンスへの理解が必要であり、それを「個人投資家を増やそう」という目標で掲げられるほど、多くの人がきちんと理解するのは、相当に難しいと私は考えるためです。また、個別株式の評価にはそれなりの「情報」(公開情報を株価の分析につながるよう整理した情報)も必要ですが、これも一般に入手は容易ではありません。自分で分析することは可能ですが、結構大変です。

 

例えば、昨年、「シン・ゴジラ」と「君の名は」のヒットから、東宝の株価が大きく上昇したことがあります。

 

東宝の過去2年株価チャート

http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=9602.T&ct=z&t=2y&q=l&l=off&z=m&p=m65,m130,s&a=v

 

上記のチャートで2016年9月の株価上昇が、映画のヒットに反応したものです。しかし、東宝の株価を少し分析し、私は以下のように考えています。

 

  1. 株価は企業の収益上昇を反映するものの、この2016年9月の株価上昇は、映画のヒットによる収益拡大の見込みから合理的に考えられるレベルをはるかに超えている。
  2. 2016年9月以降も株価推移は(アップ・ダウンはあれど)堅調に見えるが、実際はこの間にトランプ相場で日経平均は大きく上昇しており、実際の東宝の株価の伸びは日経平均と比べるとそれほどでもない(私が昨年末に行った分析では、むしろ日経平均の伸びに負けている)

 

特に、1.は個人投資家が値を吊り上げた結果と考えられ、この他にも、中小型株を中心に個人投資家の需給が株価を形成している銘柄ではファンダメンタルズ(株式評価の基本的な理論)から乖離した株価がついている銘柄は珍しくありません。Yahoo!ファイナンスの掲示板を見ても、株式への基本的な理解ができていない個人投資家のコメントは少なくなく、個別株式をそれなりに評価して投資をするというのは簡単ではないのです。

 

自分で評価するのが難しいのであれば、プロの機関投資家が運用するETFや投資信託を(低コストで)個人は買って運用をプロに委託し、じっくりと時間の利益を追求する方が中長期的に儲かる可能性は高いと思います。素直に考えれば、自分の資産状況に応じて、資産配分を決めてインデックス投資を行うのが、コストが低く合理的な判断です。そして、個人の資金が(インデックスだけではなくアクティブも含めた)ETFや投資信託に流れてプロが成績を競い、競争に促されてプロが投資先の会社をきちんと監視する、という形ができることが、マーケットを効率化し、すべてのステークホルダーにメリットのある姿だと私は考えます。

 

私は、個人投資家による個別株投資のすすめを推し進めると、「非合理な」投資行動をとる個人投資家が市場に占める割合が増えてしまうと考えています。非合理な投資家のマーケットへの参入は、市場に歪みを生み、これはプロの投資家に収益機会をもたらします(個人投資家がカモにされる)。カモがいた方が金融業界は儲かるでしょうが、個人による個別株投資の推奨はマーケットのあるべき姿からは外れているのではないかと思います。

 

なお、私は個人的に株式は好きですし、個人が個別株を「理解した上で積極的に」買える環境は理想だと思います。しかし、個人による個別株投資の推奨には、ファイナンス教育と金融情報の提供がインフラとして必須です。特に金融情報の提供(会社の分析や各種マーケット・データを利用しやすい形で提供すること)にはコストがかかります。これらがアクセスしやすく提供されるのであれば、私も「個人に個別株売買を推奨しよう」というスローガンにかなり共感できるのですが、コストがハードルとなり、これらのインフラが個人向けにしっかりと提供される時代が来るとは私には思われません。したがって、やはり私の結論は「個人による個別株投資は目標として不適切では」ということになり、成績を競うプロに個人がお金を預ける流れの方が、より健全だと思います(ただし、日本のプロ投資家の競争が十分か、というのは、また別の話ですが)。

 

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